用法2「つなぐ/かさねる」情報の関係づけ Imaging Network

総論

用法2「つなぐ かさねる/Imaging Network」では、何をつかむのか

 用法1の編集稽古はいかがでしたか? これからは、いよいよ「編集思考素」「階層化」という編集術で情報と情報をつなぎ、かさねて、創発をおこす「インタースコア編集」に迫っていきます。
 情報が何かのインターフェースに定着したものをスコアと呼びます。地面の足跡、星の運行、紙の上の文字や楽譜もすべてスコアです。スコアリングにある編集を発見し、2つ以上のスコアをつないで、かさねていくことを「インタースコア」と呼びます。 訳せば相互記譜。情報のスコアを「持ちかえる」ことで、インタースコア編集をおこしていくわけです。
 編集では情報の「乗りかえ」「持ちかえ」「着がえ」が重要です。用法1では情報の「地」を乗りかえながら、情報を集め、選び、入れかえ、広げていきました。
 用法2では、情報を切断したり、接続したりすることで、思考のプロセスを取り出す「型」を身につけていきます。「型」を変えながら編集を進めることを編集学校では、「持ちかえ」と呼んでいます。「持ちかえ」とは、ある情報が携える方法を他に持ちかえ、その姿や意味を変化させるということです。私たちはある情報を理解し、記憶し、伝達するために、その情報が携えている情報をさまざまに持ちかえさせながら、持ち運びできるようにしているのです。
 用法2では情報を用いる際の持ちかえをおこない、相互の情報を自由に関係づけることで、その活用可能性(editing capability)を広げ、状況に応じた妥当性(availability)をつくれるようになることを目指します。

持ち物をかえて、情報を変化させる

 さっそく組み合わせ方を「持ちかえる」ことで情報が変化することの例を挙げてみましょう。
 たとえば、「入学式」という情報は「桜」や「校門」という情報を持っていますが、そればかりではなく「進学」や「出費」、あるいは「出会い」や「希望」を連れていることもあります。「桜」や「校門」は入学式の景色、「進学」や「出費」は新入生の社会的・経済的状況、「出会い」や「希望」は先生や生徒におこっている心理のあらわれです。
 つまり「入学式」という情報から連想されるイメージサークルの中には組み合わせがいろいろとあり、それによって意味が変わってくることがわかります。この情報の持ち物の組み合わせを取り出し、つないだり、かさねたりすることで、情報と情報の関係づけやリンキングをしながら、そこに新たな情報を生み出そうというのが用法2のねらいです。持ち物を連想し、いろいろに持ちかえることで情報そのものの姿や形を与え、新しい意味を発見していくという編集稽古を重ねます。

「編集思考素」を使って編集の「型」を学ぶ

 私たちの思いやイメージという想起したものは、応々にして無定型であることが多いため、そのままでは取り出しにくいものです。思いつくままに話して何を言いたいのかわからなくなってしまったということは、みなさんにも経験があるのではないでしょうか。そこで情報を関連づける思考単位を「編集思考素(thought form)」として身につけ、自分で情報を動かせるようにするわけです。

 「編集思考素」は、松岡正剛校長がさまざまな編集の実践を通じて、最も多用してきた思考のパターン、情報の組み合わせを「編集の型」として応用可能なように取り出したものです。編集を進めるときに用いる「思考の素」であり、これらを多様に組み合わせて用いることで、編集が自由になっていきます。

 たとえば、松・竹・梅、ホップ・ステップ・ジャンプなど、日常的に使っている思考にまとまりをつける「型」があります。松・竹・梅は水墨画では「厳寒三友」(厳しい寒さの三人の友)と呼ばれ、冬に美しさを発揮する植物のタイプの異なる3つの代表ですが、中国の古典では不遇でも志を輝かせる賢者のタイプをあらわし、日本では優れた物事のランキングに使われました。お寿司のランクとしてもおなじみです。ホップ・ステップ・ジャンプは「三段跳びのとび方」ですが、学習の充実や事業の拡大などの理想的な過程にあてはめられています。このように、ある編集の「型」を利用して、情報に多様な意味の広がりがつくられ応用されているわけです。

 「型」には「型にはめる」といったネガティブなイメージがありますが、そうではありません。日本の茶の湯や武術、音曲や絵画などの多くの芸能、スポーツ、アートの稽古がそうであるように、「型」こそがダイナミックな活動やコミュニケーションをつくり出す独自の工夫や技術の源泉になります。それ故に「型に始まり型に終わる」とさえいわれるわけです。「型」を英語でいえば、type、model、format、template、styleなどにあたりますが、思考の型である「編集思考素」は前述したように、thought formであり、編集の成果を意表にしていくパターン・ランゲージでもあるのです。

 「編集思考素」は情報と情報とをまとめて関係づけるときの基本の「型」であり、またあらかじめ編集思考素の「型」を想定しておくことで、発想を広げることにも活用することができます。取りだしにくい思考プロセスを誰でも錬磨できるようにした、編集工学の代表的な成果のひとつです。

情報の階層を自由につくり結びつける  

編集思考素によって情報の持ちかえや組み替えが自由になってきたところで、後半は情報をさまざまなレイヤー(層)に分けて、動かす稽古をします。
 私たちは、青年・中年・高年、寒帯・温帯・熱帯、古代・中世・近代など、いろんな層(相)を時間・空間に想定して、さまざまな事象の理解をしています。これらの層は、自然状態では連続的で、どこからが青年、どこからが中年、あるいはどこから温帯で、どこから熱帯かという境目はありません。しかし、おおよその目安で層を決めることによって、動植物や衣食住などの情報の特色を関連づけながら想定しているわけです。
 編集では、情報の層を新たに発見し、いかに名づけるかがとても大切になります。この階層とその目盛りが世の中に浸透すると、新しい価値観が広がっていくことになります。たとえば、ミシュランの格付けや志望校の合格圏などもそうです。多くの雑誌やテレビの特集で取り上げるトレンドなども、みんなこのような層の発見を提示しているわけです。
 階層をつくる稽古の前にはスコアリングの編集稽古を用意しています。宇宙の誕生から、生命の発生、脳のニューロンネットワークにはじまり、言語や文化、音楽の記譜、暦の記録などもすべてスコアです。いま、みなさんが取り組んでいる編集稽古のお題・回答・指南も、もちろんスコアです。
 これらのスコアをレイヤーごとに取り出すと階層をつくることができます。そこで、異なる二つの階層をレイヤーをまたいで重ね、新しいスコアを生み出すことがインタースコア編集になるのです。用法2では、インタースコア編集への第一歩を踏み出していきます。