002番:アタマの中の探検
001番に引き続き、002番ではさらにアタマの中を探索します。ある場所や空間を思い浮かべて、そこにひそむ情報を取り出す編集稽古です。アタマの中に描かれた場所は、実は膨大な記憶が配置された倉庫(レパートリー)でもあります。
私たちは、自分の部屋を思い浮かべることができるだけでなく、そこに近寄ったり遠く引いてみたりすることができます。その気になれば机の上の小さなものまでありありと見ることができたはずです。まるで動画カメラの眼が部屋の中を観察していて、さらにその全体像を意識が捉えているかのように感じられたかもしれません。これが「注意のカーソル」というものの特殊な働きです。
編集術では、この「注意のカーソル」を自在にコントロールできるようになることが大切なカギとなります。ここではまず、アタマに描いた空間と「注意のカーソル」を重視する意味を話しておきます。
一番目は、私たち人間はアタマの中に描いた空間を元に、ふだんの会話を円滑に行っているということです。言い換えれば、アタマの中に場所や空間が思い描けるという機能があるからこそ、人間同士のコミュニケーションも可能になるのです。例えば、「ねえねえ、山本さんのマンションに伺ったら、玄関を入って、右側に靴箱があってね・・・」というように、劇場でも、レストランでも、博物館でもよいのですが、一人が話しながら空間をアタマに再現していると、聴き手もそれを再現し、双方のイメージした空間を点検しあいながら話が進みます。
これはレパートリー(倉庫)の中でも、「空間認知・位置記憶」といわれるもので、そこではかなり大量な記憶の格納と再現が可能です。
二番目に重要なのは、こうしたイメージの空間を利用して、様々な情報を動きやすくできること。推論をしたり、そのあとの思考を、空間にある情報を「注意のカーソル」が引き連れながら進めていきます。
最後に、こうしたイメージの空間には、「注意のカーソル」を自由に出現させたり、動かしたりすることができます。これは一見当たり前のように思えますが、じつはとても驚くべきことなのです。稽古で体験してもらったように、微細なもの、あいまいなものも「注意のカーソル」を当てれば、かなり鮮明にその対象を認知することができます。パソコンの画面上でカーソルが動き回ってアイコンをクリックしてまわるように、自分のアタマの中でも「注意のカーソル」が動き回っているということをつねに意識するようにしましょう。この「注意のカーソル」が、レパートリーから情報を引き出し、「カウンター」にのせていくのです。
【参考文献】
『知の編集術』
第4章:編集技法のパレード
「情報はひとりでいられない」
(134ページ)
『知の編集工学』
第2章:1 考え方とは何か
旧版 :53ページ
増補版:62ページ千夜千冊 1603夜
【参考】
『人工知能は人間を超えるか』
松尾豊